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採用・人材

AI・DX人材が採れない本当の理由
— 採用要件を言語化する5つのステップ

読了目安:約12分 公開:2026年7月6日 執筆:那須 義生(EXTOOL株式会社 代表取締役)
この記事の対象読者と、わかること

AI・DX人材を採用したいが「いい人が来ない」「面接してもピンと来ない」と感じている経営者・人事責任者・採用担当の方向けです。読み終えると、次のことができるようになります。

CONTENTS
  1. 「いい人が来ない」の根本原因は、要件の解像度にある
  2. なぜAI・DX人材の要件定義は特別に難しいのか
  3. 応募が来ない求人票の3つの典型パターン
  4. 採用要件を言語化する5つのステップ
  5. 職種別の要件定義例 — AIエンジニア・DX推進・PM
  6. 要件定義チェックリスト(10項目)
  7. 自社でやるか、外部と組むか
  8. よくある質問

1. 「いい人が来ない」の根本原因は、要件の解像度にある

採用がうまくいかないとき、多くの企業はまず「媒体を変える」「エージェントを増やす」「年収レンジを上げる」という集客側の打ち手から考えます。しかし、私が上場企業子会社の代表として毎月数百名の応募と向き合った経験からも、その後さまざまな企業の採用を支援してきた経験からも、うまくいかない採用の根本原因は集客ではなく、「誰を採るか」が正確に定義されていないことにあるケースが大半です。

要件が曖昧なまま採用活動を進めると、問題は選考プロセスの全工程に波及します。

つまり、要件定義は採用活動の一工程ではなく、求人票・母集団形成・選考・定着のすべての品質を決める土台です。ここの解像度を上げずに集客側だけ強化するのは、穴の空いたバケツに水を注ぎ足す行為に近いと言えます。

2. なぜAI・DX人材の要件定義は特別に難しいのか

要件定義の重要性はどの職種にも当てはまりますが、AI・DX領域では難易度が一段上がります。理由は3つあります。

理由1:職種名と実態が一致していない

「AIエンジニア」という同じ肩書きでも、機械学習モデルを研究開発する人、生成AIのAPIを使って業務アプリケーションを作る人、データ基盤を整備する人では、スキルセットがまったく異なります。DX人材も同様で、「DX推進担当」の実態は、企画寄り・技術寄り・現場変革寄りと企業によってバラバラです。職種名で募集すると、自社が必要とする人と違う人が集まるのがこの領域の特徴です。

理由2:技術の進化が速く、スキル要件がすぐ古くなる

生成AIの登場以降、「AIを使ったシステム開発」に必要なスキルは大きく変わりました。数年前の常識で「機械学習の博士号」「Kaggleの実績」などを必須要件にすると、実際には生成AIのAPI活用で解ける課題なのに、採用の難易度と人件費だけが跳ね上がります。「今の自社の課題に、どのレベルの技術が必要か」の見極めが要件定義の核心になります。

理由3:技術理解と事業理解の両方が要る

要件を定義するには、「事業のどこに課題があるか」(事業理解)と「それを解くのにどんな技術・経験が必要か」(技術理解)の両方が必要です。事業側だけで書くと「AIで何かやってくれる人」という曖昧な要件になり、技術側だけで書くと「うちの事業には過剰な」スペック表になります。両者を翻訳できる人が社内にいないことが、AI・DX採用が難しい構造的な理由です。

3. 応募が来ない求人票の3つの典型パターン

要件定義の甘さは、求人票に正直に現れます。採用のご相談で拝見する求人票の課題は、およそ次の3パターンに集約されます。

パターン求人票の特徴候補者からの見え方
全部入り型 「AI・DX推進全般をお任せします」。戦略立案から開発・データ分析・社内教育まで、業務内容に10項目以上並ぶ。 「何でも屋を安く採ろうとしている」「入社後に何を評価されるのか分からない」と映り、優秀な人ほど避ける。
スペック羅列型 Python・機械学習・クラウド・マネジメント経験など、必須スキルが10個近く並ぶ。なぜ必要かの説明はない。 「要件を絞れていない=入社後の役割も曖昧」と読まれる。全部を満たす人は市場にほぼ存在せず、応募自体が発生しない。
抽象ワード型 「最先端のAI技術で業務を変革」「DXを推進できる方」。具体的な業務・課題・環境の記述がない。 実態が見えないため判断材料がなく、応募の優先順位が下がる。経験者ほど「中身がなさそう」と敬遠する。

図表1:応募が来ない求人票の3つの典型パターン

3つに共通するのは、「この人に入社後何をしてもらい、何ができたら成功なのか」を発注側が決めきれていないことです。求人票の書き方のテクニックでは解決できず、その手前の要件定義に立ち返る必要があります。

4. 採用要件を言語化する5つのステップ

では、要件はどの順番で言語化すればよいのか。私たちが採用支援の現場で使っている手順を5つのステップに整理します。ポイントは、人物像やスキルからではなく、事業課題から始めることです。

ステップ1:事業課題を特定する — 「なぜ今、このポジションが必要か」

最初に言語化すべきは人ではなく課題です。「売上の頭打ちをデジタルチャネルで打開したい」「属人化した業務がボトルネックで受注を増やせない」など、そのポジションが解決すべき事業課題を1〜2文で書きます。ここが書けない場合、実はまだ採用のタイミングではない(外部委託や業務改善で足りる)可能性も含めて検討すべきです。

ステップ2:期待役割と成功基準を決める — 「1年後に何ができていたら成功か」

課題が決まったら、「入社後1年でこの状態を作ってほしい」という期待役割を定義します。あわせて、半年後・1年後の成功基準(何がどうなっていたら活躍と言えるか)を数字や状態で書きます。これは入社後の目標設定・評価にそのまま使えるため、定着率にも直結します。

ステップ3:役割をスキル・経験要件に翻訳する

期待役割を実現するために必要なスキル・経験を洗い出します。このとき必ず「必須(これがないと役割を果たせない)」と「歓迎(あれば立ち上がりが速い)」を分けます。必須は3〜5個に絞るのが原則です。10個並んだ必須要件は、実質的に要件を決めていないのと同じです。技術要件の妥当性判断が社内で難しい場合は、この工程だけ外部の技術がわかる人にレビューしてもらうだけでも精度が大きく変わります。

ステップ4:組織文脈と人物像を言語化する

スキルが合っていても、働き方や意思決定のスタイルが合わなければ定着しません。「経営直下でスピード重視」「現場との調整が多い」「整った環境ではなく仕組みを作る側」など、自社の組織文脈を正直に書き、そこで活きる人物像・つまずく人物像を言語化します。ここを美化すると、入社後ギャップによる早期離職として必ず返ってきます。

ステップ5:評価基準と面接スコアカードに落とす

最後に、ステップ1〜4を面接で確認できる形に変換します。要件ごとに「どの面接で・誰が・どんな質問で・何を確認するか」を決めた面接スコアカードを作ります。これにより、面接官による評価のバラつきが抑えられ、「なんとなく良かった」ではなく要件に基づいた合否判断ができるようになります。

ポイント:要件定義書は「一度作って終わり」ではない

書類選考や面接を数回まわすと、「この要件は市場と合っていない」「実はこの経験のほうが重要だった」という発見が必ず出ます。要件定義書を選考のたびに見直し、更新し続けることが、採用精度を上げる実務上のコツです。

5ステップの適用例 — 「DX推進担当が欲しい」を言語化してみる

抽象的な依頼が5つのステップでどう変わるか、実際の支援でよくある例で見てみます。最初の依頼はこうでした——「うちもDXを進めたいので、DXに強い人を採用したい」。このままでは求人票も書けず、エージェントも動けません。ステップに沿って対話を進めると、次のように具体化されていきます。

ここまで言語化されると、求人票のタイトルも「DX推進担当」ではなく「営業事務の業務改革リード(見積〜請求プロセスの再設計)」のような、実態が伝わる表現に変わります。誰を探しているのかが明確になれば、候補者にもエージェントにも刺さり方がまったく違ってきます。

5. 職種別の要件定義例 — AIエンジニア・DX推進・PM

5つのステップを、代表的な3職種に当てはめた例を示します。自社の状況に合わせて書き換える叩き台としてご活用ください。

項目AIエンジニア(生成AI活用)DX推進担当プロジェクトマネージャー
事業課題 問い合わせ対応・書類作成など定型業務の工数が事業成長のボトルネック 部門ごとに分断された業務・データを横断的に整理し、全社の生産性を上げたい 複数のシステム導入・改善プロジェクトが並走しており、推進を管理できる人がいない
期待役割(1年後) 生成AIを組み込んだ業務ツールを2〜3本、現場で使われる状態でリリースしている 優先度の高い2部門で業務フローの再設計とツール導入が完了し、効果測定まで回っている 主要プロジェクトが計画に沿って進行し、経営への進捗報告と課題エスカレーションが機能している
必須要件の例 生成AIのAPIを使った開発経験/業務要件をシステムに落とした経験 業務プロセスの改善・標準化の実務経験/現場部門を巻き込んだ変革の経験 システム導入プロジェクトのPM経験/ベンダーマネジメント経験
歓迎要件の例 RAG・エージェント構築の経験/特定業界の業務知識 データ分析基盤の整備経験/生成AI活用の推進経験 PMO組成の経験/AI・データ系プロジェクトの経験
よくある要件の間違い 機械学習の研究開発経験を必須にしてしまう(生成AI活用が目的なら過剰) 「デジタルに強い若手」と年齢で括ってしまう(必要なのは変革の実務経験) 特定ツールの資格を必須にしてしまう(必要なのは推進と調整の実績)

図表2:職種別・要件定義の例(叩き台)

6. 要件定義チェックリスト(10項目)

作成した要件定義の品質を、以下の10項目で自己診断してください。8個以上にチェックがつけば、求人票の作成・エージェントへの依頼に進める水準です。

採用要件定義チェックリスト
  1. このポジションが解決する事業課題を、1〜2文で説明できる
  2. 「採用」が最適な手段である理由を説明できる(外部委託・業務改善との比較をした)
  3. 入社1年後の成功基準が、数字または具体的な状態で書かれている
  4. 必須要件が5個以内に絞られている
  5. 必須と歓迎が明確に分かれている
  6. 各要件について「なぜ必要か」を期待役割から説明できる
  7. 自社の組織文脈(働き方・意思決定スタイル)が正直に言語化されている
  8. この要件の人材が市場にどの程度いるか、年収相場とあわせて確認した
  9. 面接で誰が・何を・どう確認するかが決まっている(スコアカードがある)
  10. 現場責任者と経営層が、この要件定義に合意している

特に重要なのは10番です。要件が経営と現場で共有されていないと、選考の途中で「やっぱりこういう人がいい」と基準が動き、候補者・エージェント双方の信頼を失います。要件定義書は、社内の採用関係者全員の合意文書として機能させてください。

7. 自社でやるか、外部と組むか

ここまでの手順は、自社だけでも実行できます。ただし、次のいずれかに当てはまる場合は、外部の専門家と組むことを検討する価値があります。

外部と組む形には、要件定義や選考設計を含めて採用プロセス全体を支援する採用代行(RPO)と、候補者の紹介を受ける人材紹介があります。両者の違いと使い分けは、「採用代行(RPO)と人材紹介の違いと使い分け」で詳しく解説しています。

いずれの形を取るにせよ、本記事の5つのステップ、特にステップ1〜2(事業課題と期待役割)は自社でしか決められません。ここさえ言語化できていれば、外部パートナーの力を最大限に引き出せます。逆にここを丸投げすると、どんな支援会社と組んでも成果は出ません。まずは自社の「なぜ採るのか」を言葉にすることから始めてください。

よくある質問

社内に技術が分かる人がいなくても、AI人材の要件定義はできますか?
事業課題の言語化(ステップ1〜2)までは技術知識がなくてもできますし、そこが最も重要です。スキル要件への翻訳(ステップ3)は技術理解が必要なため、外部の専門家やRPO会社と組んで補うのが現実的です。逆に、事業課題が曖昧なまま技術者に要件定義を任せると、技術的には正しいが事業に合わない要件になりがちです。
要件を絞り込むと、応募が減ってしまいませんか?
応募の「数」は減ることがありますが、選考に進む「質」は上がります。曖昧な求人票は誰にでも当てはまる分、ミスマッチの応募を大量に集め、選考工数を膨らませます。要件が明確な求人票は、候補者が自分で合う・合わないを判断できるため、面接に進む候補者の精度が上がり、結果として採用までの総工数は小さくなります。
求める要件をすべて満たす人材が市場にいない場合はどうすればいいですか?
要件定義の副産物として「必須」と「歓迎」の切り分けができていれば、必須要件だけを満たす人を採用して入社後に育てる、業務委託や外部パートナーで補う、複数ポジションに分割するといった代替案を検討できます。全部入りの人材(いわゆるユニコーン人材)を待ち続けるのが最も高くつく選択です。
面接スコアカードとは何ですか?なぜ必要なのですか?
採用要件を面接での評価項目・質問・判断基準に落とし込んだ評価シートです。これがないと、面接官ごとに見るポイントがバラバラになり、「なんとなく良かった」という印象で合否が決まります。要件とスコアカードがセットになって初めて、採用の意思決定が再現可能になります。

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